蝉の声がジリジリと。 まるで耳の奥から聞こえてる感じで うっとおしい。。 手応えのなかった一つ目の会社を出て、 僕は次の営業先へ。 その会社のある街は、 以前僕が、4、5歳くらいから 小学校2年生まで 住んでいた所らしい。 『らしい』 というのも、 その街での記憶がないからだ。 すっぽりとそこだけ欠けている感じ。 その前後の記憶はおぼろげながら あるといいうのに。 厳密に言うと、 その街での記憶は だぶん友達であった男の子に向って、 車の中から手を振っている光景しか浮かばない。 それは この街から引っ越す日の出来事で とても悲しい気持ちしか、 思い出せない。 悲しげに手を振るあの子は 誰だったんだろう。。。 少し歩くと トンネルが見えてきた。 その先にある公園を抜けたあたりに 次の会社があるらしい。 暑さと疲れのせいか・・・景色が ゆがんだ気がした。。 トンネルを抜けると 公園が見えてきた。 中を突っ切ると早そうだ。 ふと見ると、 砂場で遊んでいる子供たちがいる。 砂の中に何かいるのか、 一生懸命砂を掘っている。 なんだか、なつかしさがこみ上げてきて、 つい声をかけてしまった。 ねぇ、何かいるの?? と、その子の肩に手をかけた瞬間- すっぽりと抜け落ちていた記憶が蘇った。 あぁ・・・僕だ、この子は僕なんだ。。。 激しいめまいに襲われながら僕は、 確信した。 君は・・・、ゆうくんだね・・・? もう一人の子は、「ゆうくん」。 とても仲がよかった子で、 放課後この公園でいつも遊んでいた。 お互いの好きなお菓子を分け合ったり、 よく砂場で遊んでた。。 僕が引越しする日も、別れるのが寂しくて 泣きながら遊んだ。。 「明日も一緒に遊ぼうね!」 「明日もここに絶対くるからね!」 「絶対だよ、絶対の絶対だよ!」 「約束だよ・・・!」 そうやっていいながら 悲しげに手を振っていたのは、ゆうくんだったんだ。。 ・・・君たちはずっとここにいたのかい?? 「そうだよっ!」 「いつもここで遊んでるんだ~♪」 だって、 「契約は、絶対なんだ。」 二人の子供は口をそろえて言った。 ・・・気が付くと 僕は公園のベンチに座っていた。 あわてて時計を見ると さほど時間は経っていない。。 公園を見渡しても 僕とゆうくんはもういない。 聞こえてくるのは あいかわらずうっとおしいセミの声だけ。。 急がないと! 僕は何だかわからないけど 「あぁ、今でも楽しくやってるんだな」、と 少しうらやましい思いで その公園を後にした。。 すみません、遅れまして! 私、昨日お電話させていただきました者ですが・・ と名刺を差し出した。 「あ、どうも。私、高橋というものです。」と 彼の名刺をもらって見た途端、 その名前に愕然とした。。。 高橋 祐樹・・・ えっ・・ゆうくん!? もしかしてゆうくん!!?? 「えっ・・君は・・・!」 胸の奥が、目の奥が熱くなった。。 「元気だったのか・・?」 「・・うん・・」 僕は、あまりに驚いて、頷くことしかできなかった。。 「なぁ、このあと時間があるならどこかにいかないか?」 「じゃあさ、あの公園覚えてる??」 「もちろんさ!そこ行ってみようぜ!」 と、ゆうくんは目を輝かせて言った。 僕は その日あった不思議な出来事を ゆうくんに話してあげた。 そうしてまた 僕たちの時間は ゆっくりと 動き出した。。。